夏
今年の夏はどんな色になるかな。
夏。好きか嫌いかで言ったら嫌い。暑くてベタベタするし。夏に楽しい思い出は今のところ、ない。部活で汗を流して、自主練でラケットで虫を殴りまくってたか、高校野球を見て青春を感じながら家でアイス食って寝てた。毎日ご飯は冷やし中華or素麺。夏休みの宿題に追われて、夜中まで問題集と答えとにらめっこ。夏ってそんなもん。でもなぜか終わる時はいつも寂しい。太陽が昇って、暮れていく。それだけで寂しい気持ちになる。真っ赤な夕焼けもサライの歌も、夏が終わるってなんか寂しい。
去年の夏は何してたかって、思い出せないくらいには感情が死んでた。春は優しかった副店長も、先輩方も、繁忙期でピリピリしだして。私みたいな何も出来ない新入社員は、人数合わせで何の役にもたてなくて。早番をしだして毎日朝が怖くなって
「明日なんか来なきゃいいのに」
ってずっと思ってたら眠れなくなって。
でも朝は来るんだ。魔法使いでもなんでもない私が願ったところで、時が止まるわけない。何時間も眠れないまま仕事に行って時間に追われて、失敗繰り返して怒られて、残業して帰って。疲れてるはずなのに眠れなくて、朝を迎えて。
そりゃ体調崩しますよね、分かってる。分かってた。
「最近眠れなくて」
副店長に言ったことがある。返ってきた返事は「はぁ?社会人なんだからそういう理由で休まないで」
まあ、そうですよね。知ってるよ。知ってる。それはそう。
でもさ、眠れない理由、分かるか?あんたに。テレビを見てて。ゲームをしてて。そんなことじゃないのに。聞いて欲しかったのに。
1人で暮らしてて誰にも何も言えなかった。必死で自分の中で割り切ってたら、感情なんて亡くなった。明日なんか来なくていいのに。私なんて消えちゃえばいいのに。私1人いなくなったとこで世界は回るし、何もかもどうでもよくて。
超暑いのに黒いスーツを着て向かったのは職場じゃない。
私は人を笑顔にする仕事がしたいと思ってたから。ただの興味。ここなら自分の得意が生かせて、楽しく仕事できるんじゃないかって思って。なんとなく、自分から行動してみた。それだけ。
結果は合格してた。そのままさ、結果に従ってたら今どんな生活してたのかな。って気になる。パラレルワールドの自分へ。今幸せですか?
そんな夏の終わり、8月の最後
出会った人達がいる。あなたたちだよ。
ライブには行ってた。休みだったらフリーのやつには。ちょいちょいね。あと5/1とか。ピューロとか。
ちゃんと顔と顔を合わせてお話したのは、夏の終わりが初めてだった。最初は訳が分からなかった。四方八方から聞こえる声に、キョロキョロするしかなくて。
「就活?」(スーツだったから)
「ねえ今日のライブ楽しかった!?」
「何が良かった!?」
「ありがとう!!」
訳が分からなかった(2回目)
カーテンの向こう側はすげえいい匂いがして、優しく手が伸びてきて、みんな私のこと見てて、
訳が分からなかった(3回目)
人と話すのが苦手で、というか、会話をするのも職場以外だとないから、最初は何回も聞き直しながら会話してたの。懐かしい。何か言われる度に「ん?」って聞き返してごめんね。脳内処理がうまくできなくてさ。
大好きになったあの日から、無色だった毎日に色がついた。淡いピンク。
もう私は「明日なんか来なきゃいいのに」なんて思わないよ。
むしろ明日、未来がね、楽しみになったから。
あと3日。あと2日。明日。毎日指折り数えてたのはあなたに会えるまで。
そしたら不思議と仕事もなんだか上手くいくようになったんだ。すごいね。きっとみんなは魔法使いだ。会いに行くたびに「うまくいくよ」って「だいじょうぶ」って魔法をかけてたんだ。きっと。
「楽しい」「嬉しい」「悲しい」「悔しい」「幸せ」
たしかにあの瞬間、私の世界が回り出した。
大袈裟かもしれないけど、大袈裟ぐらいが丁度いい。私はあなたが大好きすぎるから、それぐらいで。
今年の夏はどんな色になりますか?
できることなら、今年の夏は悲しい思い出よりも、あなたと作る楽しい思い出でいっぱいにしたいです。
もうすぐ、あなたに出会った夏が来るよ。
おしまい。